2009/7/24

『悪女の美食術』

福田和也著 講談社文庫 676円(税別)


 1日の仕事を終えて、さて、今夜は何を食べようかと考える、幸せかつ悩ましいひととき。「今夜はどうしてもフレンチが食べたい!!」そう思ったらあなたはどうしますか?「1人でも堂々とフレンチレストランに行く」という人も、「フレンチに1人では行けないよ」という人にもぜひ読んでいただきたいのが、文芸評論家の福田和也氏による『悪女の美食術』です。

 福田氏がこれまでに体験した様々なレストランの話や、そこで食事をする人々を観察する中で感じた事柄が生き生きと描かれています。行列に対する一考察や自分の嗜好を我慢して無理して人に合わせて群れて食事をすることはない、という福田氏の考えに目からうろこの連続です。「一人で食事をすること。それは、自分にとって『食べる』ということはどういうことなのか、を見つめ、知るチャンスです。この修業を積まないで食について知ることは勿論、自分が誰かも知ることはできないでしょう。」(本文より)

 ちなみに私は1人で食事をする時、以前、料理評論家の山本益博氏がおっしゃっていた「convivialite(コンビビアリテ=懇親性)」という言葉を思い出します。山本氏曰く「一人で食事をする際には、食材と親しく対話するのだ」ということ。私はまだその域には達していませんが、第1章「美食の修業〜一人で食事をして迫害されない方法〜」を読み、虚空を睨みながら1人で食事をする女性の姿の描写に、自分を省みて笑ってしまいました。

 「フランスに行きたい!」という夢を持っているあなたにはぜひ「パリ、三泊十七つ星の旅〜贅を極めた美食案内〜」の章をお薦めします。文中に登場する国内外の人物や店名などには注釈がついているので、本書を標に興味が沸いた人物について調べたり、店を訪れてみるのも良いでしょう。

 福田氏が文庫版あとがきに記した「旺盛に食べ、美味しいものを愛することは、生き物として正しい。言葉を費やし、存念を語り、価値を示し、笑うことは、人間にとって本質的な行為です。」という一文に、四六時中おいしいものを食べたいと考えることは人間として真っ当なのだと慰められました。

 美女が皿の上の料理と一体化している印象的な表紙装画は松苗あけみさんによるものです。書店で見かけたら、ぜひご一読を。’06年講談社エッセイ賞受賞作品の本書、買って損はないです。(文/柏田 綾)
                                        

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