2019/12/10

ダ・ヴィットリオ

DA VITTORIO

ダ・ヴィットリオ
ダ・ヴィットリオ

HOTELS & RESTAURANTS
INTO THE FUTURE

ミラノから北東へ電車で約1時間。アルプスの麓に位置する北イタリアの都市ベルガモは中世ヨーロッパの雰囲気を色濃く残した街である。「ダ・ヴィットリオ」は、ベルガモのブルッサポルト、ミネラルウォーターで知られるサンペレグリノ水源近くの小さな美しい村落にある。
その昔、恋に落ちたヴィットリオ・チェレアとブルーナが結婚し、1966年に作った小さなレストランは、5人の子供たち全員によって引き継がれ、イタリアの伝統的スタイルである家族経営によって飛躍を遂げた。

現在ではホテル、レストラン、ケータリング、パティスリー、料理教室まで手がける多角経営で、2012年にはスイスのサンモリッツ、2019年には上海にも出店。
また2010年から9年連続でミシュラン三つ星を獲得しており、チェレア夫妻が最初のミシュラン一つ星を獲得した1978年から40年以上にもわたって、イタリア料理界不動の名門レストランとして存在する。
長男のエンリコと三男のロベルトはシェフとしてキッチンを、次男のフランチェスコはワインセラーとケータリング事業を、長女のバーバラはカフェ・パティスリー経営を、末っ子で次女のロゼッラはレストラン・ホテル経営をそれぞれに担当するほか、彼らの妻や夫、孫たちを含めた27人の大家族が、ダ・ヴィットリオを支えている。盤石の体制はどう生まれ、育まれたのか。
 

ダ・ヴィットリオ シェフエンリコ・チェレア
ダ・ヴィットリオ シェフ
エンリコ・チェレア

ダ・ヴィットリオ シェフ
エンリコ・チェレア

創業者であるチェレア夫妻の長男、通称キッコ。幼い頃から料理が身近にあった彼がレストランを継ぐのは必然だった。父のレシピに自身のスタイルを融合させながら、ダ・ヴィットリオの料理を発展させ続けている。2017年、イタリア料理アカデミーによるベストシェフ2017に選ばれた。

働く意味、犠牲の先にあるもの

ベルガモ駅から車で20分ほど。小高い丘の上にあらわれる「ダ・ヴィットリオ」は広大な敷地内にブドウ園やテニスコート、プールを有するプレシャスなリストランテ。厳選されたジュエリー、洗練された調度品が並ぶロビーは一見すると敷居が高そうだが、ゆったりとしたソファに座って重ねられた本を手に取れば、驚くほどくつろげる。

海がないのに美味しい魚が食べられる。60年代当時、北イタリアでは稀な魚を扱うレストランとして全国的に名を馳せた。「困難な時代に父は、シチリア、キオッジャ、サルディーニャ、リグリーアといった海辺の地の漁師と親交を深めてルートを開拓しました」とエンリコ・チェレアシェフ。淡水魚しか食べていなかった地元の人たちにも愛され、地域も有名にした功績を称える。2代めとして育てられた彼は、若い頃から外を見ることを教えてもらったのだという。「フランス、スペイン、アメリカ、インドネシアなどを旅行し、さまざまなカルチャーに触れられたことは幸運でした」。イタリアだけでは補えないものがある。異国の食材の味、色に感動した。

いつシェフになろうと思ったのかと尋ねると「“シェフ”とは想像力を持って料理を作る人。いつなれたのかは分かりません。コックさん、つまり厨房で料理を作る人になろうと決めたこともありません。小さい頃から厨房が身近にあっただけ」。レストランを経営するということは、祝日も祭日も働くということ。友人たちが遊んでいるときに遊べないこともある。「料理は毎日のことで犠牲的でもあります。でも、その意味とすばらしさも両親が教えてくれました」。犠牲の積み重ねで、喜ぶお客さんの顔が見られる。その心地よい興奮状態が今も自分を後押ししてくれていると信じる。

家族のストーリーは続いていく

父ヴィットリオは2005年になくなったが、母ブルーナはマダムとしてフロントに立つことも。「夫は本当に幸せな人生を私に贈ってくれました。足りないものは何もない」と話す。そして、子どもたちがレストランを継いでいることはとても自然なことだと続ける。実際に兄弟たちはそれぞれの立場で、心からこのレストランを愛しているように見える。末っ子のロゼッラは「レストランが休みの水曜日には必ず、両親が料理を作ってくれて家族で輪になって食事をしました。みんなが自由に話して」と懐かしく思い出す。医学を志していた彼女は18歳のときに経営参加を決めた。「主人がキッチンで働いていたから」と笑う。サッカー選手になりたかったという次男のフランチェスコは「父に勧められてレストランを手伝い始めました。きっと、私の才能を見抜いてくれていたんだと思います」。ケータリング事業を手がける彼も「楽しくなければ続けていない」と断言する。

日本でこれほどの家族経営レストランを見つけることはできないだろう。エンリコシェフに秘訣を聞くと「借金をすることだ」と冗談めかして話し始めたが、「両親が残してくれたレストランがあったから。今はサンモリッツや上海へと手を広げていますが、地盤はここにある。子どもたちが継いでくれたら誇りに思います」と語った。現在エンリコシェフの息子さんはスイスのホテル学校でマネジメントを学んでいるという。創業者の名を冠したレストランは、孫たちの世代へと確実に受け継がれていくようだ。

レストランでの料理の最後には、母ブルーナの名前をつけたスポンジケーキと、ブルーナがレストランで働いているときに夜のデザートとして手作りしていたという小さなカンノーリがふるまわれる。父の時代からのレシピというパッケリの濃厚なトマトソースパスタも健在だ。洗練されていながらあたたか。美味しさはいうまでもないが、家族の絆がこのレストランには詰まっている。

ダ・ヴィットリオ
Via Cantalupa, 17
24060 Brusaporto (BG) – Italy
TEL:+39 035.681024
URL:www.davittorio.com


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